お知らせ・コラム
使用者賠償責任を追及する損害賠償請求事例
今回は会社が従業員に対する安全配慮義務違反により、損害賠償請求がなされた事例のご紹介となります。自動車販売店の作業所で従業員が亡くなっていた事案で、自殺か事故なのか、自殺だとしたら職場での強度のストレスが原因だったのかが争点となっている事案です。安全配慮義務違反で損害賠償請求がなされた場合、1億円を超える支払いの判決が出る可能性があります。特に仕事が原因での自殺の場合は、企業側に100%の過失があると判断され、高額な賠償となる事例が散見されます。今回は、労災の使用者責任について事例をもとに触れていきたいと思います。
【目次】
1.自殺に直結する長時間労働の有無
2.判決のポイント
3.今回のまとめ
自殺に直結する長時間労働の有無
◎事件の概要
死亡したAさんは、平成27年4月1日にY社に雇用され自動車整備業に従事していたが、平成28年5月9日に首吊り自殺し、Aさんの両親が損害賠償請求の訴えを起こした。Y社は、自動車の仕入れおよび修理などを目的とする株式会社である。Aさんの両親は、Aさんが長時間労働の結果、適応障害に罹患し、営業所内に設置された金属製のワイヤに首を吊って自殺したとして、Y社の安全配慮義務違反、上司であるB氏とC氏らが違法な長時間労働を軽減する措置を執らなかった過失があったとする不法行為責任、使用者責任を追及する損害賠償請求訴訟を提起した。(安全スタッフ2024年3月号参照)
◎判決の要旨
・Aさんの死亡の原因が自殺なのか
天井から下がったクレーンに連結したワイヤの輪に首をかけていわゆる首を吊った状態で発見されその後死亡した。死亡したAさんの遺書などは発見されていないものの、首を吊るという態様自体が自殺を推認するものであるうえ、同人が首を吊る直前に自殺に関する記事をインターネットで検索していることから、首吊り自殺を図って死亡したものと認められる。それに対し自動車販売店Y社は、Aさんがストレッチをしようとした際の事故の可能性が高いと主張した。ワイヤに首をかけて首を伸ばすというストレッチに関する発言を、生前のAから聞いたという同僚の証言を陳述書に記載し提出した。しかしながら体重をかければ輪が閉まる形状のワイヤに首をかけること自体、危険性が非常に高く、ストレッチを目的として日常的に首を吊っていたとは考え難い、また実際に死亡したAさんがワイヤに首をつる方法によりストレッチを行っていた場面を見た者はいないため、認定を覆すには至らなかった。
・長時間労働について
Y社の営業所においては、36協定に違反する月80時間を超える時間外労働がされた場合でも、終業時間報告書上は月に80時間を超えないようにその記載内容を操作していたことが認められたため、死亡したAさんが実際の作業時間より少なめに報告書に記載していた可能性も否定できない。しかし、Aさんの就業時間報告書上の残業時間は月80時間の水準を20時間以上も下回る月が多く、こうした記載状況なども踏まえると就業時間報告書に記載された残業時間を大幅に超えて全期間を通じて80時間の残業に従事していたと考えるには疑問が残る。それらを踏まえたうえで、Y社は常軌を逸した長時間労働が常態化しているというAさんの両親の主張は認めるには足りない。また本件の証拠上Aさんの自殺に直結するほどの長時間労働があったことは認められていない。
判決のポイント
◎事例のポイント
今回の事例では、Y社のストレッチ中に誤って首を吊ってしまったという主張は荒唐無稽と思われるが、実は事故発生当初のY社との面談において、死亡したAさんの両親は生命保険金の請求手続きを行っていることもあり、Y社の事故死という説明をそのまま受け入れていたという経緯もあり話が複雑になっていた。しかし、後の労災請求において八戸労働基準監督署長は業務に起因したとして適応障害を発症し自殺したものとして労災認定している。労働時間の長さについて就業時間報告書の記載が正確化かどうかが大きな争点になっていたが、Y社の社内において労働時間に関する正確な記録がない以上、労災保険の請求時に労働基準監督署、または労働局が事実調査して、その調査報告書の内容を信頼してそれに則って過重労働があったと認定している。
◎今後の裁判の行方
今後の裁判の行方としては、労基署も、労働局も、使用者であるY社が労働時間に関する確かな証拠を持っていないのであれば、一体何に基づいて労災認定の判断を下したのかが不透明なままです。長時間労働が行われていたという証拠が、同僚や上司などの記憶に基づいて判断したのであれば、その信憑性の点が今後の争点となりそうです。
今回のまとめ
厚生労働省によると精神障害の発病は、外部からのストレスとそのストレスへの個人の対応力の強さとの関係で発病に至ると考えられています。発病した精神障害が労災認定されるのは、その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限ります。極度の長時間労働、パワハラやセクハラ等のハラスメント、事故や災害の体験、仕事の失敗、過失責任の発生などが業務による心理的負荷の要因になると考えられています。ストレスが高く心理的負荷がかかる職場ではなく、いきいきと働く事ができる職場作りを目指すことはもちろんのこと、万一に備えて使用者賠償責任保険や雇用トラブルの保険への加入をお勧めしております。
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