お知らせ・コラム
事実上の離婚状態で配偶者の死亡退職金を受け取る権利はあるのか
企業年金の死亡退職金を受給できるのは、事実上の離婚状態である夫(配偶者)か子か、という争いです。中小企業退職金共済である企業年金の加入者が亡くなり、子が死亡退職金の支給を求めました。法律で定める最優先順位の配偶者(夫)の受給権について最高裁は遺族となる配偶者とは、互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を営んでいた者を指すと判断。事実上の離婚状態にある夫は配偶者に該当しないとした(最高裁令和3年3月1日)民間保険の死亡退職金と企業年金で少し解釈の違いはありますが、今後の死亡保険金などの受取の優先順位に影響をあたえる可能性がある事案となりそうです。
【目次】
1.受給順位の定めは遺族の生活保証が目的
2.民間の死亡退職金への影響
3.今回のまとめ
受給順位の定めは遺族の生活保証が目的
・事案の概要
株式会社Xの従業員であるAさん(女性)は、株式会社XによりAさんを被保険者とする中小企業共済法の退職金共済に加入していました。年金基金の遺族一時金の支払いに関して、Aさんの子であるBさんが訴訟を提起した事案です。中小企業退職金共済法、JPP基金規約において本件退職金等の最優先順位の受給権者はいずれも「配偶者」と定められていますが、Aさんと民法上の配偶者であるCさんが事実上の離婚状態にあったため、その該当性が争点となりました。
・判決のポイント
中小企業退職金共済は、退職が死亡によるものである場合の退職金についてその支給を受ける遺族の範囲と順位を定めている。事実上の婚姻関係(いわゆる事実婚)を含む配偶者を最優先順位の遺族とした上で、その次に主として被共済者の収入によって生計を維持していたという事情のあった親族、その次が生計を別にしている遺族としている。実際に家族関係の実態に即し、上記遺族である配偶者については死亡した者との関係において互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者をいうと解するのが相当である。そうすると民法上の配偶者はその婚姻関係が実態を失って形骸化し、事実上の離婚状態にある場合には中小企業共済にいう配偶者にあたらないものと考えるべきである。よって事実上破綻している夫婦関係においては、配偶者の死亡退職金の受け取りの権利があるとは考えられない。本件は中小企業退職金共済法の死亡退職金の支給を受ける遺族の「配偶者」の意義等について判示した最高裁判決である
・共済の死亡退職金は遺族の生活保障を目的としている
共済の死亡退職金は遺族の生活保証を主な目的としている為、主として被共済者の収入によって生計を維持していた配偶者や親族が死亡退職金の受給資格がある。民法上の相続とは別の立場で受給権者を定めていると考えられるため、相続人とは別の人物が支給を受ける可能性があるとしている。
民間の死亡退職金への影響
配偶者の意義等に関して、事実上の離婚状態にあるケースでは配偶者と認めず、逆に事実婚であっても生活や生計を一にするケースでは配偶者と認めるとの最高裁での判例が出たことにより、民間のいわゆる死亡退職金に関する規定への影響が考えられます。労働者が在職中に死亡した場合の退職金については、今回の裁判で問題となった規定と同趣旨の労基法施行規則42条~45条を準用する企業が多いためです。
・使用者(企業)からの死亡退職金の支給への影響
本判決における「配偶者」の解釈は民間の死亡退職金の最優先順位の「配偶者」の解釈にも当然に及ぶことが想定されます。この解釈が及ぶとすれば、使用者は退職金の支給に際して、最優先順位の「配偶者」について、「事実上の離婚状態にある場合」なのかどうかをチェックする必要がでてきます。また、逆に「籍は入れてないが生計を一にする事実婚の場合」も考えられるため、そちらも確認する必要が出てきます。そしてチェック(遺族への問い合わせ)の過程で疑いが生じた場合はさらに調査を進めざるを得ないが個人のプライバシーに関する事項であるから容易ではなく、さらに遺族の協力が得られたとしても当事者の一方が死亡していることから正確な事実認定が出来るとは限りません。このような場合は、遺族間の紛争に巻き込まれてしまう可能性もありますので注意が必要です。
・死亡退職金の支給に規定を作成
死亡退職金を労基法に準じて支給するとした場合、使用者が労働者のプライバシーに踏み込む必要性が出てきてしまいます。しかし死亡退職金は「死亡時の法定相続人が法定相続分の割合でそれぞれ固有財産として取得する」とする規定を設けることにより、戸籍謄本等を用意してもらい排除、欠格の有無の確認をするだけで支給を行うことが出来ます。これにより、遺族の紛争やプライバシーに踏み込む必要は無くなります。
今回のまとめ
退職には、定年退職(ハッピーリタイア)・ケガや病気などによる就業不能による退職・死亡による退職の3つがあります。3つの退職に備えて保険で準備することが可能です。労働者が業務中に亡くなってしまった場合やケガで就業不能となった場合の保険としては、労災上乗せ保険や傷害保険などがあります。保険金の支払いが遺族に直接支払いするタイプの保険と先に契約者(会社)に保険会社が支払い、使用者から死亡退職金として遺族に支払うタイプの保険があります。また、会社で従業員のために加入する定期保険なども会社が受け取るタイプの保険になりますので、万一の際の死亡退職金の支払い時に困らないように事前に退職金規定の作成などを行い、備えておくことが重要です。退職金準備などについて気になる方は、ぜひお問い合わせください。
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