お知らせ・コラム
退職拒否後も面談を繰り返した会社への慰謝料請求
新型コロナウイルスの影響や日々変化する社会情勢などにより、雇用情勢が急激に悪化し新聞紙上でも退職勧奨等のリストラの話題が取り上げられるようになりました。退職勧奨の場面での上司の言動が不法行為やパワハラに該当するかが争われたケースは、数多く存在します。退職の説得の継続自体は、必ずしも禁止されているものでは無いようですが、社員の意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与える言動は不法行為に該当してしまいます。実際の裁判で不当行為やパワハラに該当した事例を紹介しながら、退職勧奨の注意点などについて触れていきたいと思います。
【目次】
1.執拗な退職勧奨で自尊心を損ね慰謝料20万円
2.退職勧奨の注意点
3.今回のまとめ
執拗な退職勧奨で自尊心を損ね慰謝料20万円
事件の概要
原告のAは総合電機メーカーである被告においてソフトウェア関連の業務に従事していた。退職勧奨を拒否後も面談を繰り返して退職を迫られたとして、会社に対し慰謝料等を求めた。横浜地裁は説得を継続することは直ちに禁止されないが、上司は執拗に面談を繰り返し「他部署での受け入れは困難」との発言は根拠が乏しいうえ、能力がないのに高い給料を得ているなどの自尊心を傷つける発言もしており不法行為が成立するとして、20万円の賠償を命じる(H製作所事件 横浜地裁 令和2年3月24日)
原告の主張①
被告から違法な退職勧奨およびパワーハラスメントを主張して、不法行為に基づき、慰謝料100万円を求めた。
判決のポイント
退職勧奨は、その事柄の性質上、多かれ少なかれ説得の要素を伴うものであり、一旦退職に応じない旨を示した従業員に対しても説得を続けること自体は直ちに禁止されるものではない。その際、使用者からみた当該従業員の能力に対する評価、引き続き在職した場合の冷遇の見通し等について言及することは、当該従業員にとって好ましくない評価であったとしても、直ちには退職の違法性を裏付けるものでは無い。以上の点を踏まえたうえで今回の退職勧奨の問題を列挙する。
1.原告が明確に退職を拒否した後も複数回の面談が行われているおり、面談の内容も相当程度に執拗なものであった
2.確たる裏付けがないのに他の部署による引き受けの可能性が低いことをほのめかす。
3.原告の希望する業務に従事するためには、他の従業員のポジションを奪う必要があるなど原告を困惑させる発言を行い、八方ふさがりの状況にあるような印象を与えた。
4.単に業務の水準が劣る旨を指摘したにとどまらず、執拗にその旨の発言を繰り返した上に能力が無いのに高額な賃金を受けているなどと自尊心をことさらに傷付けた。
以上の状況を総合的に判断すると、労働者の意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与えと言わざるを得ない、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨であると認めるのが相当であり、不法行為が成立する。退職勧奨は業務執行に関して行われたものであるので使用者責任を負う(慰謝料20万円)
原告の主張②
原告に対して違法かつ無効な査定が行われ、賃金が減額されたと主張して雇用契約に基づく賃金請求権を主張。違法かつ無効な査定が無かった場合との差額の賃金および賞与等の支払いを求めた
判決のポイント
本件、GPM評価制度そのものを不公平かつ違法な制度であるということはできない。評価については、使用者の裁量権を逸脱した違法なものではない
退職勧奨の注意点
裁判で退職勧奨の場面で名誉感情を不当に害する侮辱的な言葉とされた例
「自分で行き先を探してこい」「管理職の構想から外れている」「〇〇法人の権威を失墜させている」「ラーメン屋でもしたらどうだ」「管理職としても不適格である」「移動先を自分で探せ」「あなたとは誰も一緒に仕事をしたくないと言っている」「退職すれば人件費が浮く」
以上のような侮辱的な言葉は違法とされています。非常に難しい点として、自発的な退職意思を形成する本来の目的を超えない範囲での退職勧奨と当該労働者に対する侮辱的な発言の相違だと思います。事実に基づいた内容での当該労働者の仕事の成績や仕事の取り組み方などについての指摘や今後の会社の方針などについて、当該労働者の名誉侵害や人格攻撃を伴わない形で伝える工夫や気づかいが必要とされます。
退職勧奨に応じない場合の使用者の対応が問題となった裁判例
退職勧奨拒否後の出向命令について、本人を退職に追い込もうとするまたは、本人が退職勧奨に応じることを期待するという違法・不当な動機に基づいて行われたもので当該出向命令は権利を濫用したものとして違法としています。また、退職勧奨に応じない労働者に対する業務上の差別も違法とされています。例えば仕事を与えない、あるいは無意味な業務を課す等がそれにあたります。
今回のまとめ
退職勧奨の言動の違法性と不当なパワハラ行為はほぼ一緒と考えられています。例えば、①人格を否定するような言動を行うこと②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと等は、パワハラに該当するものの例示ですが、不当な退職勧奨も全く同じです。不当な退職勧奨と認められてしまうと、同時にパワハラで訴えられてしまったり、不当解雇の問題など大きな問題に発展してしまう可能性が高いので、退職勧奨は専門家の意見を聴きながら慎重に行う必要があります。