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海外出張先のホテルで強盗に襲われる。労災になるのか?
グローバルな世の中となり、海外から日本にやってくる労働者も増えていますが、日本から海外に業務のために赴く労働者も増えています。海外では、国内と情勢が大きく異なり、治安も悪い国もあり従業員が危険にさらされてしまう事も十分に考えられます。今回の事例は、従業員が海外のホテルで強盗に襲われ殺されてしまった悲惨な事案となります。従業員が出張先で強盗に襲われた場合に労災になるのか?また、会社の責任はあるのかなどについて、事件を基に触れていきたいと思います。
(労働新聞社 安全スタッフ 2022年11月号参照)
【目次】
1.海外先のホテルで強盗に殺される
2.海外出張保険でカバー
3.今回のまとめ
海外先のホテルで強盗に殺される
災害のあらまし
ワカメの加工販売を営むX社は、業務本部長のAに対しワカメの検品などを目的として中国の大連へ出張を命じた。Aは大連滞在の5日目に宿泊先のホテル内で、強盗に襲われ、頸動脈を切り付けられ出血多量で死亡した。Aの遺族は業務上の災害による遺族補償年金の給付を求めたが、労働基準監督署はこれにはあたらないとして不支給決定をした。遺族はこの決定を不服として、審査請求をしたがこれも棄却され、その後再申請を請求したがこれも棄却された。その後、この決定に対して納得できなかった遺族は、地裁に対してこの処分に対する取消しの訴訟を起こした。
判断
地裁は遺族による訴えは妥当であると判断して、労働基準監督署の決定を取り消してAの死亡は業務上の災害であると判決を下した。
解説
業務上の災害が認められるためには、業務遂行性と業務起因性の両方の条件が求められる。
業務遂行性について
労働者が労働契約に基づく使用者との雇用関係にある場合において、命じられた業務を遂行するなかで生じた災害であることである。この事例では、AがX社から業務上の命令で中国大連に出張していたということで、業務遂行性については要件を満たしている。
業務起因性について
労災判定をするうえで業務起因性の有無が焦点となった。労働基準監督署は、Aは第三者の行為による加害行為により死亡したものであるため、業務起因性はないので業務上の災害にあたらないと主張をした。
労基署に反し、地裁が業務起因性を認めた理由
事件当時Aが宿泊したホテルは現地では高級ホテルとされていたが、宿泊以外の人が容易に出入り可能であること、非常階段の出入り口付近の照明が暗いことなどセキュリティーや安全対策は十分であるとは認められなかった。当時の外務省の安全情報では現地である中国大連市は、傷害、強盗、拳銃を使用した殺人、恐喝事件が頻発しており、日本人を狙ったスリ、置き引き、ひったくり、暴行などの事件が発生していることが記載されていた。Aは所定の宿泊施設内で行動しており、進んで私的な行為をしていたことは認められなかった。地裁は本件事件でAが約8万円入りの財布を奪われたことと、上記状況から同様に日本人が被害者となる事件が頻発していること、所定のホテルの宿泊者に対する安全対策が十分でないこと私的行為ではないことなどを考慮した。そこでAの死亡に対しては業務起因性を否定する特段の理由がなく、業務上の災害による死亡の場合にあたるものとして、労働基準監督署の決定を取り消した。
海外出張保険でカバー
労災にならないケース
今回の事例では、Aはもっぱら業務遂行のためホテルに滞在していたということである。仮にAが業務と関係ない私的な行為をしていてこのような事件に遭遇したとするならば、労働基準監督署の主張した「第三者の行為による加害行為により死亡」となり、業務上の災害にあてはまらない可能性が強い。「業務遂行性」や「業務起因性」の要件を欠いてしまうことになるからである。また、Aは雇用関係のあるX社からの出張命令を受けて、業務遂行中に被災したため業務上の災害に認定された。この場合と異なり、海外の事業場に使用される労働者として勤務する場合はホテルや宿舎や自宅で被災しても当然、労災の適用はされない。
海外出張保険でカバー
海外出張は仕事で海外に行くので労災の範囲内と考える方も多いと思いますが、上記で触れたように労災が適用されないケースもあります。また、ケガではなく海外で病気によって治療を受けた際の治療費などは、労災の対象外になりますので、被災者の自己負担となってしまいます。海外でのケガや病気での補償をしっかりと準備するために、海外出張保険に加入する事をお勧めしております。海外出張や海外駐在に備えて必要な補償が付帯されていますので、海外でのお仕事の際には是非、ご検討ください。
今回のまとめ
今回ご紹介した事件の様に海外出張中では、何が起こるかわかりません。出張中に被災した場合、本人はもちろん被災者の家族は労災だと考えますし、会社の責任に関しても追及してくると思います。会社の責任に関しては、労災認定された場合は労災上乗せ保険や使用者賠償保険でカバーできますが、労災認定されない事故や病気のリスクに備えて海外主張用の保険に加入しておきましょう。
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