お知らせ・コラム
掛け持ち勤務による過労で精神疾患
働き方改革の影響などで従業員の副業を容認する企業もある中で、コロナの影響で収入が減少した従業員が掛け持ちで仕事をするケースが増加しています。掛け持ちで働く事により、労働時間が増えたり、精神的なストレスを抱えるなど過重労働が心配になりますが実際に、複数業務要因災害で労災申請が行われた事例もあるようです。今回は、日中はカフェチェーンの店長として働き、夜間は宅配・デリバリーのアルバイトをしていた方に対しての労災事例をもとに、複数業務による労災認定基準の内容について触れていきたいと思います(労働新聞 安全スタッフ 9月号参照)。
【目次】
1.複数業務要因災害の労災認定の改正
2.掛け持ち勤務による精神疾患
3.今回のまとめ
複数業務要因災害の労災認定の改正
・2020年9月1日に法改正
2020年9月1日より、1つの事業所で労災認定できない場合であっても、事業主が同一でない複数の事業場の労働時間やストレスなどを総合的に評価して労災認定がなされるという改正が行われました。労災保険は、労働者が業務や通勤が原因でケガや病気などになったときや、死亡したときに、治療費や休業補償など必要な保険給付を行う制度です。しかしこれまでは、複数の会社で働いている労働者について、働いているすべての会社の賃金額を基に保険給付が行われないこと、すべての会社の業務上の労働時間やストレスを合わせて評価して労災認定されないことが課題でした。このため、多様な働き方を選択する労働者やパート・アルバイトなどで複数就業している人が増えているなど、副業・兼業を取り巻く状況の変化を踏まえて、複数の職場で働く労働者の方が安心して働くことができるような環境を整備する観点から労働者災害補償保険法が改正されました。
・複数業務要因災害の範囲
これまでは、一つの業務上のみの負荷(労働時間やストレスなど)を評価していましたが、これからは複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価して、労災認定の判断がなされることになりました。なお、対象となる複数業務要因災害による労災認定の疾病について現時点では、脳・心臓疾患・精神障害となっております。
掛け持ち勤務による精神疾患
・災害の概要
労災請求人であるAさんは、日中はカフェチェーン社の店長として勤務、昼の仕事が終わると夜間は、宅配・デリバリーのアルバイトとして働いていました。H社とF社の労働時間を通算すると、月の時間外労働時間は100時間超だった。コロナ禍による影響でカフェの売上が下がり、店舗責任者としての歩合給や報奨金が減っていた。そのため生活費を少しでも補てんするために一年前から仕事を掛け持ちし、週3~4日程度深夜勤務を行う生活が続いていたところ、精神疾患を発病した。発症直前にH社の業務で自身の店舗の売上げが回復しないことにより、本社エリア統括責任者から強い指導・叱責があったという事実も確認されています。
・判断
社員Aの働き方がH社とF社の労働時間を合算すると、恒常的な長時間労働(月100時間を超える時間外労働)が認められるとされ、業務上の労災と認定された。
・解説
H社の心理的負荷とH社とF社を合算した労働時間が長時間労働にあたるとの判断
これまでは、1つの事業所のみの業務上の負荷(労働時間やストレスなど)を評価して労災認定の判断をしていたが、2020年9月1日の法改正によって1つの事業のみでは労災認定されない場合は複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定の判断がなされることとなった。今回の事例をこの改正内容にあてはめて考えてみましょう。これまでの脳・心疾患、精神疾患などの判断基準によれば、H社とF社の負荷は合算されなかった。H社の業務で上司から強い指導・叱責(業務上推定される指導・叱責の範囲内)を受けた事案については、心理的負荷の強度は「中」となりますので、H社だけでは労災認定が認められるのは難しいと思われます。しかし、改正内容を当てはめて複数業務要因災害として判断するとH社の業務中の上司からの強い指導・叱責については心理的負荷強度「中」、さらにH社とF社の労働時間を合算すると恒常的な長時間労働(月100時間を超える時間外労働)が認められます。強い叱責と長時間労働の両方を考慮すると発症前の心理的負荷強度は「強」となり、今回の事例は業務上による複数業務要因災害として認定されました。
今回のまとめ
各企業にとって従業員さんの副業を認めるのか、認める場合はどんなルールを定めるのかなど企業として色々と検討しておく必要があると思います。2つ以上の事業場の業務によって労災認定の判断が行われるのは、脳・心臓疾患、精神疾患などの病気労災に関してなので、従業員さんが無理をしていないかなど注視する必要があります。また、ダブルワークによって寝不足などの体調不良の状態で就業に就くことにより、事故の危険性も高まりますのでより一層、従業員さんの体調面の管理をしっかりと行うことにより、労災事故の防止に繋がると思います。
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