お知らせ・コラム
営業社員との解雇をめぐるトラブルで損害賠償金が発生
近年では、従業員の雇用を守る労働者保護の傾向が強まっており、問題を起こした社員や会社の命令に従わない社員に対して解雇処分を行った結果、解雇された社員から解雇権の濫用で会社が訴えられてしまうケースが増加しております。
今回ご紹介する事例は、就業規則の懲戒解雇事由に基づき解雇したつもりだったが、その後の裁判等で解雇が不当との判断が下り会社側が3000万円もの損害賠償金を支払った事例のご紹介になります。実際のトラブルの内容や発生原因や未然防止策なども踏まえて事案について触れていきたいと思います。(AIG損保 事故例集参照)
【目次】
1.製造業で発生した営業社員への解雇トラブル
2.解決までの流れ
3.今回のまとめ
製造業で発生した営業社員への解雇トラブル
事故概要
会社の吸収合併が行われ、吸収された側の会社の営業職の社員2名が新規取引先の開拓という業務命令に応じないうえに、社有車等の業務外使用や顧客とのトラブルが続いたため、会社は就業規則の懲戒解雇事由に基づき両名を解雇しました。
しかし両名はパワハラや配置転換など嫌がらせを受けたと主張し、解雇は無効として裁判所に提訴しました。
事故内容
・この二人は合併前の会社で新規取引先の開拓や既存顧客のメンテナンス業務に従事していた営業職の正社員でした。
・合併後、両名は新社長が示した方針に異議ばかり唱えて従わず、新組織において担当となった新規取引先の開拓業務についても、その営業活動をしていない様子でした。
・さらに社有車やプリンターなどの会社資産を業務外に使用していたことが発覚、顧客とのトラブルも立て続けに発生し、就業規則の懲戒解雇事由に基づき両名を解雇しました。
・その翌日、両名は弁護士を立てて、会社に解雇の撤回を求める内容証明郵便を送付してきましたので、会社も弁護士を通じて撤回の意思がないことを文書で回答しました。
・するとその翌日、両名は弁護士を通じて、解雇の無効と判決が確定するまでの賃金・慰謝料を請求するとして会社を裁判所に提訴しました。
・訴訟でこの両名は、「合併後に変更された労務管理が強権的だったので異議を述べたところ、上司からパワハラを受け、その挙句に解雇された」と、解雇権の濫用を主張してきました。
・3年後、裁判所が解雇は不当との見解を示したため、会社は和解に応じた。
今回の事案の発生原因と未然防止策
発生原因①
懲戒解雇事由に関して、就業規則に記載の具体的事由との合理性が無かったこと(解雇通知書には従業員の具体的な非行行為の記載は無かった)
未然防止策
・懲戒解雇とは、社内の秩序を著しく乱した従業員に対するペナルティとして行う解雇であり、会社が行う最も重い処分となります
・過去の裁判の傾向から、会社は就業規則に記載のない事由での懲戒解雇はできないため、具体的な事由を明記しておくことが必要です。
発生原因②
パワハラと思われるような言動や行動を両人の上司が行っていたこと。会議の場で大きな声で叱責、1時間以内のメールの返信を求めできなければ叱責、周囲から見て合理性にかける配置転換などの嫌がらせ等
未然防止策
・いわゆるパワハラ防止法が成立、大企業は2020年から中小企業でも2022年4月から適用となります。
・会社は職場におけるハラスメントに対する方針を明確化したうえで、従業員に周知・啓発することや相談窓口をあらかじめ設置することなどが、義務化されました。
解決までの流れ
解決までの経緯
①会社は就業規則の懲戒解雇事由の正当性を主張し、訴訟は一進一退であった
②訴訟開始から1年半後にこの会社の親会社が本件を把握、保険会社に報告
※ポイント①速やかな報告
③半年後、解雇理由の証拠が不足の1名はバックペイ・慰謝料1500万円で和解
※ポイント②不当解雇の損害とは
④就業規則違反の悪質性が高いとするもう1名とは、証人尋問を重ねて争った
※ポイント③労働者保護の傾向
⑤3年後、裁判所が解雇は不当との見解を示したため、会社は和解に応じた
☆2名分の損害賠償請求額3300万円に対して解決金3000万円を支払い解決
解決までの対応ポイント
ポイント①速やかな報告
・保険約款には損害賠償請求がなされた場合は遅滞なく保険会社に通知すること、損害の拡大の防止に努めること、損害賠償責任の承認・支払い等には事前に保険会社の同意が必要であること、などが一般に定められている。
・不当な雇用慣行を理由とする損害賠償請求を受けとった際には速やかに保険会社へ事故報告すべきでしょう。
ポイント②不当解雇の損害とは
・裁判所に不当解雇と認定された場合は、解雇が無効とみなされ、解雇日以降も従業員としての地位が認められることとなります。その場合に会社が負担すべき賠償や補償の内容は以下の通りです
①会社には解雇日から解決日までの給与(バックペイ)の支払い義務
②従業員には復職する権利
※未払い残業代は保険での支払いの対象とはなりません
ポイント③労働者保護の傾向
・最近の判例内容は労働者保護の傾向が強く、会社側の解雇の正当性が極めて認められづらいといえます。概ね95%以上の事例で不当な解雇とされ、会社側が損害賠償責任の負担を強いられています。
・会社としての問題意識やメンツのために訴訟が長期化して、結果的にバックペイが高額化した場合は保険会社が支払いに難色を示すこともあります。訴訟の行方をきちんと見極めて着地点を考える必要があります。
今回のまとめ
解雇トラブルが発生し裁判になった場合、労働者側に有利な判決が出ることが多いようです。また就業規則の懲戒解雇事由を明記したうえで、解雇事由の証拠をしっかりと残しておく必要があります。裁判が長引く場合ではバックペイの支払いが増加してしまうので、速やかに労務問題に強い弁護士に委任するなど早期の解決を目指す必要があります。
雇用慣行保険などに加入する事により、万が一の損害賠償金の備えはもちろんのこと弁護士費用などの争訟費用の備えにもなります。
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