お知らせ・コラム
製造業における海外製造物責任と事故例
今回は、日本国内で製造・販売したマッサージチェアが知らないうちに海外に転売されており、電源コードの短絡(ショート)により火災が発生し、海外から損害賠償請求をされてしまった事案のご紹介になります。
電子商取引市場の拡大により、製造・販売者が認識していないところで第三者によって国外に転売されるケースが増加しています。国内販売のみの企業であっても国外に転売された商品が原因で海外にて訴訟等の問題になった場合は、現地の国や地域によって適用される法律や裁判制度に対応しなくてはなりません。
国内向けの賠償責任保険(国内PL保険)だけでは対応できないケースもありますので、実際に起きてしまった事故例と対応する保険について触れていきたいと思います。
【目次】
1.海外製造物責任で解決金6440万円
2.海外PL保険とは
3.今回のまとめ
海外製造物責任で解決金6440万円
☆事故概要
日本国内で製造・販売したマッサージチェアが、知らないうちに海外に転売されていました。台湾の住宅で発生した火災の原因が、このマッサージチェアにあったとして、焼損した住宅と家財の損害について、メーカーは1憶円の損害賠償請求を受けました。
☆事故内容
・火災発生時、住人は在宅でしたが出火時点の様子を目撃した人はいませんでした
・マッサージチェアと少し離れた柱周辺が激しく燃えており、特に柱は低い部分から燃えているため、柱付近に置かれていた他の電気製品が火元である可能性もありました。
・他にも電気製品があったため、事故後に現場で発見されたショートした電線がマッサージチェアの電源コードかどうかは、判断できませんでした。
・しかし現地の消防局は、現場でショートした電源コードはマッサージチェアの電源コードであり、そこが出火原因であることを示しているとして出火原因はマッサージチェアであると判定しました。
・被害者は日本のマッサージチェアメーカー、その台湾現地子会社、および製品を台湾に転売した販売会社を訴えました。
☆解決までの経緯
①被害者はマッサージチェアメーカー等に対し台湾で損害賠償請求訴訟を提起。
②メーカーは、自社の顧問弁護士が紹介した台湾の弁護士を通じて消防局の判定には十分な根拠がないと反論。
③一審は、メーカーに約760万円と遅延損害金(年5%)の支払いを命じた
④現地でニュースになり、自社ブランドの信用が傷つけられたメーカーは、マッサージチェアの潔白をアピールしたいと考えて、逆転勝訴を望み控訴。
⑤その後早期解決に方向転換し、一審判決額と同額で和解した。
☆裁判所の責任論と結論
・裁判所は火災原因について全面的に現地消防局の判定結果を採用しました。
・「消防署は事故後すぐに現地に向かい実際に現場を確認した」「消防局は中立機関であり故意に一方の肩を持つ必要が無いので信憑性がある」との判断
・使用してない時は電源スイッチをOFFにしてプラグをコンセントから抜くようにという正しい使用方法を守っていなかった為、被害者に対して10%の過失相殺が認められた。
☆莫大な弁護士費用
・和解額は建物と家財に対する損害賠償金(一審判決額)と遅延損害金で合計860万円でしたが、台湾の弁護士の費用は火災鑑定人や翻訳の費用も含めて5200万円で、セカンドオピニオンとして日本の弁護士と火災鑑定人の費用380万円と合わせると合計6440万円となりました。
・海外での賠償事案の場合は弁護士費用等の高額な争訟費用の負担が発生します。総じて海外の弁護士費用は日本と比較して高額になりやすいようです。
海外賠償保険とは
☆海外賠償の特徴
国内賠償保険では補償されない海外賠償リスクへの備えを目的とした保険となります。
海外賠償の補償では、製造・販売・飲食業などを営む企業の海外におけるビジネス展開に伴う賠償リスクを補償します(業種や製品によっては引き受けが出来ないケースもあります)
・製造・販売業務の遂行・施設の管理による対人対物についての補償
事故例
・海外の展示会ブースへ商品を搬入中に来場者にケガを負わせてしまった
・海外の駐在員事務所から漏水し、階下の部屋に損害を与えた
・機械の設置作業中に物を落下させ納品先の製造ラインを破損させてしまった
・製造・販売した製品または仕事の結果による対人・対物事故についての補償
事故例
・輸出した飲料に含まれていた成分が身体に悪影響を及ぼした。
・携帯電話(完成品)メーカーへ納入した自社バッテリー(部品)が液漏れを起こし、携帯電話の発火により火災が発生した。
・海外で販売した製品の欠陥による火災事故が発生したため、同じロットの製品回収を直接行った。
☆国内賠償保険の特約で準備
・国外流出生産物危険補償特約
貴社が日本国内おける使用・消費を目的として販売・供給した製品・商品(生産物)が被保険者以外の者によって日本国外に持ち出され日本国外で対人・対物事故が発生した場合における賠償責任を補償します
事故例
・国内で販売した菓子を外国人旅行客が海外へ持ち出し、食中毒事故が発生した。
今回のまとめ
海外で賠償事故が発生してしまうと、現地の法律に従う必要があるため対応が非常に難しくなることに加えて、賠償金はもちろんのこと弁護士費用などの争訟費用も高額になる恐れがあります。
海外向けに製品を輸出している企業や海外でビジネス活動している企業はもちろんのこと、自社製品が意図せずに海外に流出してしまう危険性がある企業にとっても、海外賠償事故に対する備えを検討しておく必要があると思います。気になる方は、ぜひお問合せ下さい。
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