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試用期間中の解雇、企業と従業員のリスク管理
雇用試用期間は、企業と従業員双方にとって重要な期間です。この期間中、企業は従業員の能力や適性を評価し、従業員はその企業が自分に合っているかを確認します。しかし試用期間中の解雇はトラブルの原因となることが多く特にその理由やプロセスが適切でない場合、法的な問題や損害賠償請求に発展する可能性があります。試用期間中の解雇に伴うリスクと損害保険を活用したリスク管理について考察します。
【目次】
1.試用期間中の解雇
2.予防策と保険の組み合わせ
3.今回のまとめ
試用期間中の解雇
試用期間中の解雇は、解雇理由が正当である場合でも慎重に行う必要があります。不当解雇とみなされると、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
①損害賠償請求・・・従業員が不当解雇と感じた場合、精神的苦痛や失業による損害を理由に賠償請求を行う可能性があります。
②訴訟コスト・・・法的紛争に発展すると企業は弁護士費用や訴訟費用を負担することになります。
③評判への影響・・・解雇トラブルが公開されることで企業の評判に悪影響を及ぼすことがあります。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、解雇の理由を明確にし解雇前に十分なフィードバックを提供し改善の機会を与えるなど適切なプロセスを踏むことが不可欠です。従業員を能力不足を理由に解雇することについては以下の労働契約法に基づく制限があります。
【労働契約法16条・・・解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして、無効とする】
解雇をめぐって訴訟になりこの条文により解雇が無効(不当解雇)と判断されてしまうと多額の金銭の支払いを命じられてしまいます。そのため解雇の前に慎重な検討が必要です。そして判例上能力不足による解雇が有効と認められるための要件はおおむね以下の通りです。
・要件① 改善のための具体的な指導をする・・・企業としてその従業員に求める業務水準を示したうえで、その従業員の実際の業務状況と比較し、改善すべき点を具体的に指摘して改善のための指導をしていること
・要件② 改善のための期間を与える・・・一定期間内に改善できない場合は解雇になる可能生があることを具体的に伝えたうえで、改善のための期間を与え、その期間中の業務状況を踏まえても改善が難しいと判断できる場合であること
・要件③ 配置転換や降格による解決ができない・・・配置転換や降格の余地がある場合は、配置転換や降格によっても能力不足の問題を解決できなかったこと
ただし、特別な職歴や特別な能力に着目して即戦力として採用された中途採用者については新卒採用者で必要とされるほど指導のプロセスを踏まなくても雇用契約上予定されていた業務能力を欠いている事実が認められれば、解雇が有効と認められる傾向にあります。
<Y株式会社の事例(東京地判:令3.10.20)>
食用油濾過機の製造等を業とするY社は溶接グループが繁忙となった時期に即戦力となる溶接経験者を雇い入れる目的で求人票にもその旨を明記したうえで募集を行い、A氏(当時50歳)とY社との間に3ヶ月の試用期間とする期間の定めのない労働契約を締結しました。Aの履歴書や職務経歴書からは溶接を長年に亘り経験し専門技術を習得しているという会社の即戦力として期待できるものと受け取れましたが、実際にはAが作成した製品数百点はY社が期待した技術水準には全く達していませんでした。その都度指導しても技術の向上も改善する意欲も認められず、試用期間一カ月程で解雇することとなりました。試用期間中であっても解雇の有効性は原則厳しく判断されるのですが、本件は、①即戦力となることを期待し、求人票にも明記したうえでの中途採用であったこと、②Aの能力が欠けていることを示す事実(Aが製作した製品数百点)、③解雇前にY社が経験者を前提とした指導をしていたことを根拠として本件解雇を有効と判断している等から、解雇の有効性が認められています。特に②の部分は極めて重要な事実です。中途採用であれば解雇規制を比較的緩やかに考えうる一つの事例となった裁判例です。
予防策と保険の組み合わせ
試用期間中の解雇に伴うリスクを管理する方法の一つとして、損害保険の活用が挙げられます。具体的には以下のような保険商品が役立ちます。
- 雇用慣行責任保険(EPLI)・・・不当解雇やハラスメント、差別などの雇用関連の訴訟リスクをカバーします。この保険は、法的費用や賠償金を補償することで、企業の財務的な負担を軽減します。
- 役員賠償責任保険(D&O保険)・・・試用期間中の解雇が役員の判断によるものである場合、役員個人に対する責任追及をカバーします。
- 一般賠償責任保険・・・労働関連のトラブル以外にも対応するため、包括的なリスク管理として有効です。
保険はリスク軽減の一手段ですが、根本的なリスクを防ぐためには予防策が不可欠です。以下のような取り組みが有効です。
明確な試用期間の契約書作成・・・解雇条件や評価基準を明確に記載することで、後のトラブルを防ぎます。
公正な評価プロセス・・・評価方法を透明化し公平なフィードバックを行うことで、従業員の納得感を高めます。
法的アドバイスの活用・・・解雇に関する法律の専門家からアドバイスを受けることで、リスクを事前に把握します。
今回のまとめ
試用期間中の解雇は避けられない場合もありますが適切なリスク管理を行うことで企業も従業員も安心してこの期間を過ごせるようになります。損害保険を含めた総合的な対策を検討しトラブルの発生を最小限に抑えることが重要です。
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