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雇用トラブルの事例から対応策を考える

雇用トラブルの事例から対応策を考える

令和5年度、厚生労働省によせられた労働相談件数は1万6,053件で、11年連続で1万5,000件と高止まりしています。※厚生労働省「令和5年度個別労働紛争解決制度の施工状況」より。今回は雇用トラブルの事例から発生原因(問題点)を確認するとともに未然防止策について共有させていただきます。

 

【目次】

1. トラブルの内容と解決までの経緯

2. 発生原因(問題点)と未然防止策

3 .  今回のまとめ

 

トラブルの内容と解決までの経緯

【事例】運送業従業員との雇用トラブル

運送会社でフォークリフトの主任オペレ-タ-をしていた従業員Aは、最重要ともいえる大口の取引先を担当していました。ある時、その取引先の貨物を破損する事故が発生したため会社が謝罪したところ、「以前から度々同じようなミスがあった」と指摘されるとともに担当を変更するよう要求されました。重要取引先との関係悪化を重く見た会社が、Aに対して2週間の謹慎処分を命じたところAが猛反発し、上司ともみあいになる事態となりました。これまでも現場における勤務態度に問題があったこと、数々の懲戒処分歴があったことを考慮し、会社はAに非現業部門への異動を命じましたがAは応じませんでした。現場にポジションがなく、にも応じないAに対して会社はやむなく退職を勧告。話し合いの結果、合意の上で退職することとなりました。3か月後、Aの弁護士から謹慎処分と退職強要に対する慰謝料、退職無効と現場への復帰、退職から解決までのバックペイ、過去1年分の未払い残業代について1,130万円の損害賠償請求を受けることとなりました。

バックペイとは

解雇が不当と判断された場合、解雇時から解決時(和解・判決など)までに労働者に支払われるべきであった賃金を「さかのぼって支払う」という意味。会社も弁護士を立て弁護士同士で話し合いをしましたが不調に終わったことで、Aは労働審判を申立てました。

労働審判とは

労働紛争を原則3回以内の期日で迅速・適正・実効的な解決を目的とした裁判所の制度で、審理期間は平均約2か月半とされています。裁判官から解雇そのものに違法性がないとは言えず、会社が300~400万円を支払い、会社には復帰したいという条件で和解勧告を受け、未払い残業代・退職から和解までのバックペイ・慰謝料の計350万円で和解が成立しています。※AIG損保「事故事例集 Edition4」より

発生原因(問題点)と未然防止策

では、トラブルの原因(問題点)と未然防止策を見てみましょう。

懲戒処分

発生原因(問題点)

今回の貨物損傷や取引先から指摘された以前の同様なミスについて従業員に確認せず(弁明の機会を与えず)2週間の謹慎処分を命じた

未然防止策

就業規則に規定されていない懲戒処分を科すことはできません。従業員に事実経過や顛末を報告させ、当該行為の性質・態様等が就業規則上の懲戒事由に該当することおよび懲戒処分の程度が、その他の懲戒事由や過去の処分と比較して、均衡がとれており合理性があることを慎重に判断することが必要です。

配置転換

発生原因(問題点)

配置転換の必要性と正当性を従業員に理解させる十分な説明が行われなかった

未然防止策

職種などの限定がなく、業務上の必要性があり、不当な目的・動機および従業員に与える著しい不利益(賃金、勤務場所、私生活への影響等)がない場合は、就業規則にもとづき配置転換命令を出すことは可能です。ただし、業務命令違反ともなり得る人事異動命令を拒否する正当で配慮すべき理由の有無を確認し、従業員の理解を得る対応もトラブル防止の観点からは重要です。

退職勧奨(退職勧告)

発生原因(問題点)
退職勧奨による合意退職(従業員が自由な意志で退職届を提出して退職すること)の手続きが不十分で、退職強要または普通解雇と捉えられた
不適切な労務管理(未払い残業代)があった

 

未然防止策

退職勧奨を行うこと自体は問題ありません。ただし、その方法が多数回にわたり必要以上に長期間行われ、不当な心理的圧力をかけるなどの対応は、退職強要、解雇とみなされる可能性があります。勤務態度の問題や事故発生については、その都度、改善および再発防止のための再教育・指導を行い、その記録を残し、退職勧奨の根拠として提示することも納得させる材料になります。事例のように残業代の未払いなどの労務管理上の問題があると、労働審判や訴訟の動機付けになる可能性があります。※AIG損保「事故事例集 Edition4」より

今回のまとめ

この事例における和解金額350万円の内訳は、

未払い残業代120万円
退職から和解までのバックペイ180万円(月給30万円×6か月)
慰謝料50万円

となっています。近年注目を集めている「雇用慣行賠償責任保険(ハラスメント保険と言われているもの)」は、ハラスメントトラブルだけでなく事例のような解雇トラブルにも対応できることをご存じでしょうか?雇用慣行賠償責任保険においては、未払い残業代や解雇前の未払い給与といった法律上会社が負担すべき給与の一部であるものは補償対象となりません。また、本来従業員として復帰が認められるものの復帰をせず、その代わりに上乗せされた解決金や、割増(追加)退職金、転職準備資金等も一般的には保険の対象外となっています。とはいえ、事例のケースではバックペイ180万円と慰謝料50万円に弁護士費用45万円を加えた275万円から免責金額(10万円)を引いた265万円が保険金として支払われています。事例のように、合意して円満退職したのに後日不当解雇として訴えを起こされるケースが多いこと、バックペイは解決が長引くほど高額化すること、労働審判では第1回期日が申立てから40日以内の日に指定されることが原則とされているため呼出状が届いた3週間後(概ね期日の10日前)までに答弁書を提出しなければならないといった短期間での準備が求められるため、雇用トラブルを専門とする弁護士に早急に相談する必要があること等を考えると、備えておきたいリスク対策と言えるのではないでしょうか。

 

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