お知らせ・コラム
労災認定の境界線、どこで線引き?
従業員から労災の申請があった場面で、本当に労災なのかどうか、会社として疑問があり、対応に困る場合がありませんか?どのような場合に労災にあたり、どのような場合は労災ではないのかの判断については、労災認定基準を確認する必要があります。労災認定基準とは、国が労働者に対して労災としての給付をするかどうかを判断する際の基準をいいます。事故による負傷や死亡の労災では「業務遂行性」と「業務起因性」の2つを満たせば労災が認定されます。これに対し、精神障害や過労死の労災認定では、発症前概ね6か月以内の業務によるストレスを評価して判断する基準が採用されています。今回は、労災認定がもたらす会社への影響、また境界線上にある事例の判断について考えてみましょう
【目次】
1.労災認定がもたらす会社への影響
2.労働災害 境界事例
3.今回のまとめ
労災認定がもたらす会社への影響
会社としては、労災が認定されると、以下のような影響が及びます。
◇従業員から損害賠償請求を受ける可能性がある
◇労災が認定された従業員の解雇は、一定期間禁止される
◇過労死や過労自殺については報道がされ、社会的非難を浴びることがある
◇一部の業種では行政の入札に参加できなかったり、行政処分をうけることがある
そのため、会社としては、労災が認定されそうなのかどうかについて、ある程度予測を付けたうえで、対応をあらかじめ検討しておくことも重要になります。雇用に関するリスクについて保険などで補償を備えておくことも一つの手でしょう。労災認定を受けると企業のイメージダウンや、保険料の増加、書類送検、裁判の準備が必要な場合など、あらゆるデメリットを受ける可能性があります。いずれにせよ会社としては事実関係を確認し誠実に対応することが求められます。
労働災害 境界事例
福岡は屋台が名物です。毎日多数の観光客と会話を楽しみながら屋台で酒や料理を提供していた従業員Aは客にすすめられ飲酒をすることもありました。ある日の閉店後、アルコールを摂取した状態で屋台を片付けていましたが、その際誤って屋台のテーブルで手を挟んで負傷しました。
◇判断
従業員Aは屋台を片付けながらではありますが、飲酒しており、私的要素が強いことから事業者側は業務外として労災申請を拒みましたが、Aは業務上での負傷と言い張り、個別の判断の結果、業務上による災害と認められました。
◇判断に至る経緯
当初、災害の発生状況からすると、屋台の片づけは通常業務であるが、勤務中に客からすすめられて飲酒していたことから、事業者側は私的行為にあたるのではないか?アルコールを飲んでいなければ事故が起きなかったのではないか?と考え労災申請をしませんでした。しかし今回のケースは事業主の支配・管理下にあって業務に従事しており日常的に調理や接客を行っている業務の性質上、顔見知りの客にすすめられると飲酒を断ることが難しい状況であり、また、A自身もアルコールの量も少なく仕事ができる状態でした。業務災害の判断としては境界線上にあるため、「多少の量で仕事ができる範囲だったか」「飲酒を断ることができない状態だったか」「飲んでいてもいなくても起こりえたケガだったのか」など総合判断で認定します。事業主も、客からすすめられると飲酒を断りにくい状況や実際に飲みながらコミュニケーションをとる場面があると知りながら対策をとらず黙認していたのであれば、仮に業務災害とならなくても「管理不行届き」となり、いずれにせよ事業者の責任が追及されます。
◇今回の事例の総括
今回の災害のように業務後の片づけを従業員一人に任せており、人員が少なく最小限の人数で働いているため管理監督不足であり、日ごろから労災事故に関する危機管理も充分に教育していませんでした。これらのリスクを未然に防ぐためには、勤務中のアルコールを原則禁止とする、又は私的行為は勤務終了後に行うように徹底することが重要です。接客はお客様とのコミュニケーションが重要ですが、アルコールが入ると注意が散漫になります。今回は軽いけがですみましたが、大けがにつながる可能性もあり、業務上災害となれば、会社側が責任を問われ、場合によっては本人、家族から損害賠償を求められることもあるのです。
今回のまとめ
労働災害は、労災認定されるにあたり、業務と傷病に一定の因果関係があること、また労働者が事業主の支配下にあった場合におきた災害であることが認められなければなりません。今回の事例のようにいわゆる境界線上の場合では様々な要因から個別の判断が下されることもあります。労災訴訟などに発展する前に、あらかじめ従業員の怪我等に備える補償、また業務災害となり労災訴訟で損害賠償を求められた場合に、専門家への相談や賠償金を補償できる備え等を準備しておくと安心です。気になる方はぜひお近くの代理店まで一度ご相談ください。
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