お知らせ・コラム
就業禁止・休職命令 病名診断無くても適法に
大手自動車メーカーで働く労働者Aが、休職期間満了による自然退職は違法と訴えた裁判で、東京地方裁判所は、労働者Aの請求を全て棄却しました。会社はAに精神疾患の疑いがあるとして、就業を禁じた後、休職命令を出しました。Aは医療機関を受診し「病名・診断なし」とする診断書を提出しましたが、就業禁止は解除されませんでした。同地裁は、Aが支離滅裂なことを述べたり、朝礼で突然会社批判の演説を始めるなどの事情から、産業医が就労不可と医学的に判断しており、産業医の判断をふまえた会社の命令は適法であり、自然退職も有効であるとしました。
【目次】
1.事件の経緯と概要
2.裁判所判断のポイント
3.問題のある従業員を解雇する時の注意
4.今回のまとめ
事件の経緯と概要
【事件の概要】
労働者Aは平成25年8月に中国地方に本社を置く大手自動車メーカーに入社しました。平成29年8月、産業医との面談において、Aは入社以来、周囲の人から様々なことを言われて困っていると話しました。具体的には「バットで殴れ」、「会社に火をつけろ」「ファミリアを買って暴走しろ」などで、自分への嫌がらせであり、その事実は組織ぐるみで隠ぺいされているとして、産業医に職場環境の調査を申し出ています。産業医はその一年前のAとの面談でも精神疾患に起因する言動があったことから、妄想性障害の症状が出ているとして、Aに精神科の受診をすすめました。しかしAは受診を拒み、さらにこの1か月後、朝礼中突然立ち上がり、パソコンのモニターをフロアの同僚に向け「組織の隠ぺい体質」「殺人事件」「会社の安全性」などのワードを用いて会社の不当性を訴えました。産業医はAと面談し、精神科の受診の必要性を説明しましたがAはこれを拒否。産業医はこれまでの経緯からただちに精神科を受診させる必要があり、少なくとも専門医から就労可能との判断を受けなければ業務復帰は妥当ではない旨、人事部に伝えました。
【その後~訴訟までの経緯】
同社は産業医の判断を受け、同日Aに就業禁止と精神科の受診を命じました。Aは3日後に精神科を受診し「病名、診断無し」とする診断書を会社に提出しましたが、会社側は就業禁止を解除しませんでした。翌年1月には3か月の欠勤が続いているとして休職を命じ、さらに令和2年1月には休職期間満了で自然退職となる旨の連絡と共に産業医の検診を受けるよう勧めましたがAがこれに応じなかったため同社が退職を通知したところ、Aは就業禁止・休職命令は違法として裁判を提起しました。
裁判所判断のポイント
地裁は、同社の就業禁止命令は産業医の判断を踏まえた適法なものである判断しました。またAに対しては、就業禁止と休職からの復帰に必要な診断書提出や、産業医面談などの手続きを講じておらず、休職命令、休職期間満了による自然退職ともに有効と判断しました。Aは病名の診断はなく、就業禁止の根拠がないと主張しましたが、同地裁は精神科医による診断書は、職場での言動などが伝わっていないなかで作成されたものであり、適切な情報提供がない状態での判断であったと評価し、Aの主張を退けています。
問題のある従業員を解雇する時の注意事項
今回、労働者Aには何らかの精神的疾患があったことが考えられます。大切な従業員であっても、会社にとって大きな不利益をもたらす可能性がある場合、休職を命じたり、さらに他害などがあった場合には解雇も検討しなければならないかもしれません。企業が従業員を解雇するには一定の要件があります。障害のある従業員の場合には特にどんな点を注意すべきでしょうか。
障害の特性を理解したうえで適切な注意や指導を行ったか
従業員の問題行動や能力不足等を理由として解雇したいと考える場合、重要になるのが、会社が適切な注意や指導を行い、従業員に改善の機会を与えていたかという点です。単に、問題行動がある、能力不足であるというだけでは、解雇は有効と認められないことが通常です。会社側が十分な注意や指導を行い、改善の機会を与えたが、それでも改善の見込みがない場合に、初めて正当な解雇理由があるといえるのです。特に、精神障害がある従業員の場合、障害の特性を理解し、従業員に適した方法で指導や注意を行う必要があります。しかし会社の配慮をもってしても障害により業務にたえられないこと、また業務中の居眠りや私用電話などの職務怠慢やミスを繰り返し再三指導をしても改善されず、さらにミスを隠匿するような行為をした従業員には判例も解雇を認めている場合があるようです。
今回のまとめ
障害者に限らず、解雇は、会社からの一方的な通知によって雇用契約を終了させるため、従業員としては納得いかないと感じることが多く、トラブルや訴訟に発展しやすいものです。企業側の働かせ方やハラスメントによって心身の障害が発生したという主張をされる場合もあるでしょう。また、障害者の解雇に特有の点として、障害者差別の解雇だという非難を受けることがあることにも注意すべきでしょう。企業側としてはハラスメント、雇用上の差別、不当解雇等で従業員から訴えられた場合に備え、「雇用慣行賠償責任保険」に加入しておくことで、専門家への相談費用、争訟費用、賠償金などに備えることができます。誰もが安心して働ける職場づくりには、企業自身の自衛策も必要です。ぜひ一度お近くの代理店などでご相談ください。
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