お知らせ・コラム
PTSD発症し労災 企業が安全配慮義務を否定?
某大手電化製品販売企業の従業員が、上司の叱責や同僚の暴力によりPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、会社らに損害賠償を求めた事件がありました。原告は入社後最低ランクの人事評価が続き、また、上司や同僚らの注意指導が許容範囲を超えていたと訴えました。
【目次】
1.事件のあらましと裁判の行方
2.控訴判決のポイント
3.「パワハラ企業」と言われないために
4.今回のまとめ
事件のあらましと、裁判の行方
労働者Aは、平成21年に同社に入社し、店舗で家電販売や商品管理業務に従事していましたが、平成25年7月に主治医からうつ病、および不眠症と診断され会社を休職することとなりました。Aは平成26年9月、うつ病および不眠症の発症が上司の叱責や同僚の勤務中における暴行が原因であるとして労災保険給付を請求したところ、労働基準監督署長は、当該暴行における心的外傷後ストレス障害の発症を認め、給付の支給を決定しました。その後Aは会社に対し、雇用契約の債務不履行(安全配慮義務違反)、または使用者責任に基づく損害賠償を求めて訴えを提起しました。Aの訴えについて、一審は会社に対して591万円の支払いを認容しました。これに対し会社側は、敗訴部分を不服として控訴を申立てると共に、Aに対して休職期間満了による退職扱いとしたとして、雇用契約上の地位の不存在確認を求める反訴を提起しました。
本件の争点
- 上司の叱責や同僚の暴行による負傷等の「業務起因性」
- 企業の安全配慮義務違反または不法行為上の過失の有無
控訴判決では、Aの請求の一部を認容したものの、一審判決より会社の責任の範囲を大幅に減縮しました(2万円余りに変更)。
控訴判決のポイント
- 暴行の原因について
暴力行為を働いたAの同僚であるBは、Aより15年ほど勤続年数が長かったのですが、Aに仕事上の注意をした際にAから「お前には言われたくない」と反抗され、唾をかけられたので、カッとなってその場にあったペットボトルでAの頭を叩くようなそぶりで脅そうとしたところ、手元が狂いペットボトルが顔にあたってAのかけていたメガネが外れたとのことです。裁判所としては、ペットボトルでの殴打は偶発的に行われたものであり、会社が充分に予見できた可能性があるとまではいえないと判断しました。
- 心的外傷後ストレス障害の発症の有無について
Aは主治医であるD医師作成の意見書を根拠に、従業員らの暴行により心的外傷後ストレス障害が発症したと主張していました。しかしながらD医師はA本人及びAを支援する労働組合の関係者から事情を聴いているにすぎず、職場の上司や同僚からの聴取をしていませんでした。労働組合の関係者の陳述は明らかな誇張があり信用に足るものではないと判断しました。
- 安全配慮義務違反の有無
不法行為、会社のAに対する指導について特に注意すべき義務があったとは認められず、パワーハラスメント行為を防止するための特段の体制整備をすべき義務があったとは認められないとしました。
- 雇用契約の地位不存在
会社は、休職については業務外の疾病(うつ病)によるものであると主張するが、Aは業務の中で従前から生じていた抑うつ状態が憎悪するなどして休職が必要となるような精神疾患を発症し、そのために休職を余儀なくされたとみるのが妥当であるとしてAの休職は業務に起因するものと認め、会社は就業規則の定めを根拠にAを退職の扱いとすることはできないと企業側の訴えを退けました。
「パワハラ企業」と言われないために
今はハラスメントに敏感な時代ですので、企業側としても充分な対策を講じておかなければなりません。以下のような対応を準備しておきましょう。
申告を受けた場合には迅速な調査を実施
パワハラの相談を受けた場合には、迅速に事実関係の調査をする必要があります。パワハラが疑われる事実の申告があったのに、漫然と放置していたような場合には、安全配慮義務違反となる可能性があります。
調査結果を踏まえた適切な対応
従業員が行った行為がパワハラに該当すると判断した場合には、適切な対応をする必要があります。対応の方法としては、事案によっては注意指導で足りる場合もありますが、検討の中心となるのは懲戒処分です。懲戒処分を有効に行うためには、就業規則上の根拠が必要になるため、パワハラが懲戒処分の対象となることを就業規則上も明確にしておきましょう。
配置転換や席替え等で被害拡大を回避
懲戒処分等とは別に、さらなる被害拡大を抑えるため、配置転換や席替え等加害者と被害者との関係性に配慮しましょう。なお、時折、被害者に対して配置転換や席替えを実施されることがあります。これは良かれと思ってのこともありますが、被害者にとっては二次被害にあたる場合もあるので、被害者ではなく加害者を配置転換等すべきです。
今回のまとめ
ハラスメントに関しては、企業側が気をつけていてもトラブルになることはあります。損害保険には、ハラスメントをはじめとした労務トラブルについて専門家のアドバイスを受けられるサ-ビスや、労務問題がおこった際に損害賠償請求がなされる前に弁護士に相談できる費用が補償可能なものもあります。気になる方はお近くの保険代理店までお気軽にご相談ください。
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