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企業防衛としての労災上乗せ保険の支払い事例

企業防衛としての労災上乗せ保険の支払い事例

中小零細企業の経営者の方の中には、国の労災保険に加入しているので追加で労災保険の上乗せ保険まで加入する必要はないと考える方も多いように感じます。建設業の工事中の第三者に対する賠償保険や製造業におけるPL保険に代表される生産物賠償保険と同じように、労災上乗せ保険も企業防衛として非常に重要な保険となります。

今回は、労災上乗せ保険に加入していた企業で実際におきた労災事故をもとに保険の内容について触れていきたいと思います。

(AIG損害保険の資料を参照)

【目次】

1.サービス業での支払い事例

2.電気工事業での支払い事例

3.今回のまとめ

 

サービス業での支払い事例

・職場でのハラスメントによるうつ病発症で自殺未遂、労災認定後に訴訟となった事例

業種・・サービス業

事故原因・・パワーハラスメント

事故概要・・従業員が職場でハラスメントを受け精神的苦痛から自殺未遂をしてしまいました。幸い一命はとりとめましたが、足の複雑骨折等の重傷を負いました。

事故内容(詳細)

入社2年目の社員が、職場で他人に知られたくない重大秘密を暴露されてしまい、差別・偏見にさらされて居場所をなくし、精神的に追い詰められていた

・この社員は身体的な特徴において大きなストレスと苦痛を感じていた。そのため本人の苦痛を取り除くため、美容整形手術を受けたが、このことを本人の了承なく勝手に職場内で広められてしまった。

・社員はその後、不眠症やうつ病を罹患し、ハラスメントによる精神的苦痛を理由に投身自殺を図りました

・一命はとり留めましたが足の複雑骨折等の重傷を負った

勤務先の法人はこの事件を労災事故と認めず、社員は自費で治療

解決までの経緯

1.社員が労災申請

事件前の治療記録や事実関係から、うつ病や自殺未遂の業務起因性が認定され、療養補償給付と休業補償給付を受けた。

2.後遺障害12級認定

労災に後遺障害12等級が認定された約219万円の労災給付

労災からの後遺障害12級支給金額の内訳(被災者の毎月賃金30万円・ボーナス100万円の場合)

障害補償一時金・・給付基礎日額156日分

障害特別支給金・・20万円

障害特別一時金・・算定基礎日額156日分

3.労災訴訟に発展

事件から1年4か月後、2800万円を求める損害賠償請求を提起

4.裁判所の見解

裁判所がハラスメント行為は会社ぐるみで行われており、上層部は事態を把握していながら防止策や是正策を講じなかったと事実関係を認定

5.和解(労災上乗せ保険が慰謝料の原資となる)

身体障害への補償とハラスメント行為に対する慰謝料等、1190万円を法人が支払う事で和解

☆使用者賠償責任保険・・1036万円

うつ病と足の治療による治療期間中の休業損害(労災の休業補償給付との差額)50万円、入通院慰謝料100万円、後遺障害による逸失利益500万円、後遺障害慰謝料290万円、弁護士費用96万円

☆雇用慣行賠償責任保険・・154万円

ハラスメントに対する慰謝料100万円、弁護士費用54万円

 

当初、負傷の原因が自殺未遂によるものであったため、会社側は労災と認めていなかった。しかし被災者自身が労災申請を行い、職場での秘密の暴露が強い心理負荷となり、直接の原因と認められた為、業務起因性があるとして労災申請が認められた。

被災者は労災から約219万円+休業補償しか給付を受ける事が出来ず、会社側に2800万円の損害賠償請求を行っており、保険に加入していなければ自己負担で対応する必要があった案件になります。

 

電気工事業での支払い事例

・高所作業中に安全帯不使用で転落、積極的な遺族対応により示談が成立した事例

業種・・電気通信工事業

事故原因・・安全帯の不使用

事故概要・・下請業者の従業員A(50歳)が施主の工事内で照明器具を交換する作業中、高さ約3mの脚立から降りる際に足を踏み外して転落しました。頭部を強打して急性硬膜下血腫、多発性脳挫傷を負い事故から12日後に死亡しました

事故内容(詳細)

契約者は一次下請で、被災した作業員Aは2次下請けの従業員だった

・機械部品製造業者の工場内において、作業員数名で高さ3mの脚立を使用し照明器具の取替作業を行っていた。

・作業員Aはヘルメット・安全靴を着用していましたが、安全帯は着用のみでフックはかけていなかった。

・脚立の下から8段目(高さ2.5m)から降りようとした時に足を踏み外して落下し頭部を負傷、2週間後に死亡してしまった。

解決までの経緯

1.元請け企業が政府労災を申請

2.作業員Aの所属会社(2次下請)は労災上乗せ保険に未加入で本事故により解散

3.政府労災以外に元請企業は3000万円、契約者(一次下請)は2000万円を支払うことで示談

元請企業は労災上乗せ保険に未加入だったが、自社の資金で3000万円を用意した。契約者は労災上乗せ保険で死亡保険金を2000万円で付保していた為、自己負担が発生することはなかった。

4.作業員Aが外国籍の方であったため、約款で定める「遺族」の確認が難航

 

建設業における下請け作業員も労災上乗せ保険では補償の対象に加えることが出来ます。

政府労災だけでは十分でないため、契約者(一次下請)と元請けは慰謝料を支払い示談することに成功しました。2次下請は慰謝料の支払いが負担になったこともあり、この事故の後に解散しています。

今回のまとめ

ご紹介の事例は、安全帯のつけ忘れや各種ハラスメント防止に対する企業としての認識の甘さによるものであり、防ぐことが可能な事故だったと思います。逆に言えば、企業が安全管理を徹底することにより防ぐことが出来た事故だったので会社の責任が重く問われました。

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