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精神障害の労災請求と労災支給が過去最多に

「働きすぎで命を落とす」――そんなことはあってはならないはずですが、日本では依然として過労死や過労自殺のニュースが後を絶ちません。厚生労働省は令和6年度「過労死等の労災補償状況」を公表し、精神障害の労災補償状況で、請求件数と支給決定件数が過去最多を更新しました。特にうつ病や適応障害といった精神疾患は、外からは見えにくいだけに発見が遅れがちで、結果的に深刻な事態に至ることがあります。そのようなケースでは「労災認定」を受けることが重要な一歩となります。さらに場合によっては、会社に対する損害賠償請求という法的な解決に発展することもあります。今回は業種や発生原因など最新の厚生労働省の公表した中身のご案内と、精神障害の労災認定について考えていきましょう。
【目次】
1.介護・福祉の事業が最多
2.精神障害の労災認定とは
3.今回のまとめ
1.介護・福祉の事業が最多
精神障害の労災申請の請求件数と業種
令和6年の厚生労働省の発表では、請求件数は3780件と前年度比200件以上の増加、支給決定件数は1055件と同170件以上の増加と大幅に伸びています。このうち死亡・自殺(未遂を含む)件数は159件で21件増加しました。
業種別の請求件数と支給決定件数の上位3業種
■医療・福祉・・・請求件数983件 支給決定件数270件
■製造業・・・請求件数583件 支給決定件数161件
■卸売・小売業・・・請求件数545件 支給決定件数120件
出来事別の傾向
「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が224件とトップで次に「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」が119件と続きました。一方、「顧客や取引先、施設利用者から著しい迷惑行為を受けた」が108件となり前年の52件から倍増し3番目に高い出来事となりました。年齢別での請求件数は30代、40代、50代と続いています。
2.精神障害の労災認定とは
認定されるための基本条件とは
労災認定の対象となるには、まず医師によって精神障害と診断されている必要があります。うつ病や双極性障害、適応障害などが代表例です。さらに、発症前に業務上の強い心理的負荷があったこと、そして業務外の要因(家庭の不和など)が主因ではないことが確認されなければなりません。この「業務が主な原因である」と判断されれば、労災として補償を受けられる可能性が高まります。
業務との因果関係と判断基準
厚労省の指針では、精神障害の発症と仕事の因果関係を判断する際に、次のような出来事が考慮されます。
長時間にわたる時間外労働
上司や同僚からのパワハラ・セクハラ
重大なトラブルや事故への対応
短期間での異動や責任増加
特に、これらが「客観的に強いストレス」と評価される場合は、労災認定の可能性が高くなります。
「過労死ライン」と長時間労働の影響
よく耳にする「過労死ライン」は、1か月に100時間を超える残業、または2〜6か月平均で月80時間を超える残業が目安とされています。この水準を超えて働いていたことが確認されると、業務が原因であると認定されやすい傾向にあります。実際には「ライン」ぎりぎりでなくても、連日の深夜残業や休日出勤が続けば心身は確実に消耗していきます。その積み重ねが精神障害発症につながるのです。
実際に労災認定されたケース
いくつかの代表的な事例を見てみましょう。
広告代理店の若手社員の過労自殺
入社1年目で華やかな仕事に就いたものの、月100時間を超える残業を強いられ、うつ病を発症。最終的に自ら命を絶ちました。労災が認定されただけでなく、遺族は会社に対し損害賠償を請求し和解に至っています。
IT企業のシステムエンジニア
システム障害対応で昼夜を問わず呼び出され、連続勤務が常態化。数か月後にうつ病を発症し退職に追い込まれました。裁判では会社の安全配慮義務違反が認められ、労災給付とは別に慰謝料が支払われました。
製造業ライン管理者の急死
精神障害ではなく心疾患ですが、月90時間の残業が原因で心筋梗塞を発症し死亡。過労死として労災認定され、遺族補償が支給されました。
いずれのケースも、長時間労働と企業の管理不足が背景にあります。
遺族が請求できる補償と損害賠償の流れ
労災認定が下りると、遺族は労災保険から次のような給付を受けられます。
遺族補償年金・一時金
葬祭料
発症後に療養していた場合は傷病補償年金
ただし、これらはあくまで労災保険による最低限の補償です。安全配慮義務違反により会社が損害賠償請求を受ける可能性があります。
安全配慮義務違反をめぐる裁判の考え方
労働契約法には「使用者は労働者の安全に配慮する義務を負う」と明記されています。裁判では、精神障害のリスクを予見できたのに放置した場合や、明らかに過重な業務を強いた場合に、安全配慮義務違反が認められやすい傾向にあります。これは、単なる「労災認定」だけでなく、会社の法的責任を問う重要な観点にもなります。
3.今回のまとめ
精神障害や過労死の労災認定は、業務との因果関係を示せるかどうかが大きなポイントです。長時間労働やハラスメントといった事実が裏付けられれば、認定の可能性は高まります。さらに、労災認定後には、会社に対する損害賠償請求という選択肢も存在します。過去の裁判例を見ると、安全配慮義務違反が認められるケースは少なくありません。万が一の労災トラブルや労災訴訟に発展した時のために、使用者賠償責任や雇用トラブルに対応できる労災上乗せ保険への加入ニーズは高まっております。労災トラブルは仕事中のケガによって起こる事案だけでなく、ご紹介したように精神障害や長時間労働が原因での労災認定も増えてきています。ケガのリスクが比較的少ない業種でも万一の事態に備えて労務トラブルに関する保険や労災上乗せ保険の加入のご検討をお勧めしております。
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