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使用者賠償責任補償の必要性を考える

業務中の労災事故による従業員やその遺族から損害賠償請求を受けるケースが増えています。安全管理に不備がある、適切な労務管理をしていなかった等の理由で遺族や従業員から損害賠償請求をされることになれば、企業にとって大きな負担となります。今回は、労災上乗せ保険の特約として補償される「使用者賠償責任」について詳しく見てみましょう。
【目次】
1.労災事故事例から使用者賠償責任補償の必要性を考える
2. 使用者賠償事案から企業を守るには
3 . 今回のまとめ
1.労災事故事例から使用者賠償責任補償の必要性を考える
「使用者賠償責任補償」とは、労災事故により会社や従業員が法律上の損害賠償責任を負った場合に「損害賠償金」「争訟対応・弁護士費用」などを補償するもので、労災上乗せ保険等の特約で備えることができます。サ-ビス業で実際に発生した労災事故の事例を見てみましょう。
≪労働災害事例≫
【業種】サービス業
【事故原因】過重労働
【損害賠償請求額】2億円
【解決金額】1億5,000万円
サ-ビス業の従業員A(40歳)が勤務先のオフィス内において脳内出血で倒れ、入院7か月、通院1年半にわたり治療を受けましたが脳損傷による高次脳機能障害と右半身の機能障害が後遺障害として残りました。従業員Aの法定外労働時間は、事故前半年の月平均80時間、事故前1か月は110時間という状態でした。治療から復帰した後、会社は従業員Aを週2回程度の出社へシフトを変更し、給料の減少分を補填していましたが、限度があるとして2年後に補填を終了したことを契機に、従業員Aは早朝出勤・無休憩・深夜残業・休日出勤等による長時間労働や、過大なノルマにより過重労働に陥っていたとしてユニオンに協力を求め、2億円の損害賠償を請求することとなりました。会社は従業員Aと労働基準監督署への対応に備えて顧問弁護士に相談しましたが、風評を気にするあまり積極的な行動を取らず、従業員Aから発病時に労災申請しなかったこと等についての指摘を受けて後日労働基準監督署の調査が入ることとなり、労働災害上の後遺障害2級と認定されました。この事例では訴訟にならないように交渉した結果、解決金1億5,000万円で示談となっています。
※AIG損保「事故事例集Edition4」より
2.使用者賠償事案から企業を守るには
先の事例では解決金1億5,000万円で示談となりましたが、この会社が加入していた使用者賠償保険金額は1億円でした。後遺障害保険金として1,000万円支払われていたため、残りの解決金4,000万円と争訟費用としてかかった4,000万円の合計8,000万円は自己負担となっています。この事例は民法改正前の事例であるため、2020年4月1日以降に発生していた場合は、逸失利益がさらに2,700万円増額されます。保険に加入しているから安心、とは言い切れないのです。熱中症により後遺障害1級となった事例や死亡の事例もあります。死亡や後遺障害となるような事故や長時間労働による過労死、業務起因性が認定されたうつ病などの労災事故が起こると、企業の負担は大きくなります。長時間労働・精神障害など労災リスクが多様化していること、労災訴訟は長期化しやすく、解決までに数年かかかることがあることから時間だけでなくコストもかかること、賠償金が高額化しており、後遺障害や死亡のケ-スでは1億円を超える場合も多くなっていること、風評被害が生じるリスクが高くなることからも使用者賠償事案の対応には高度な専門知識が必要となります。労災事故に備えて保険の活用を検討される際には、補償内容はもちろんですが、
使用者賠償事案に精通した担当者が対応してくれるか
担当者が高度な知見に基づく適切なアドバイスを提供してくれるか
担当者が代理人弁護士をサポ-トし、解決に尽力してくれるのか
経験豊富な弁護士を紹介してくれるか
といった事故時の対応についても確認しておくことをお勧めします。
※AIG損保「使用者賠償責任補償の事故対応」ちらしより
3.今回のまとめ
今回、労災事故による使用者賠償責任について事例を参考に見てきましたが、労災認定される事故も時代と共に変わってきています。厚生労働省が公表している「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害に関する労災請求・認定件数は年々増加しており、令和6年度の認定件数は1,055件と過去最多となっています。2023年に精神障害の労災認定基準が改正されたことにより、カスハラ、感染症等の病気や危険性の高い業務に従事した、といった理由でも精神障害の労災認定がなされる可能性があります。うつ病についても長時間労働にだけ注意しておけばよい、という訳にはいかなくなっているのです。また胃潰瘍で労災認定されたというケースもあるため、いわゆる病気労災(業務上疾病)についても考慮しておかなければなりません。労災では見舞金や示談金、争訟費用や損害賠償金は補償されません。労災上乗せ保険に加入していないという企業経営者・事業主の皆さまだけでなく、加入しているという皆さまも、この機会に死亡・後遺傷害や使用者賠償の保険金額の見直しに加えて、ケガだけでなく病気の補償についても検討してみてはいかがでしょうか。気になる方はお近くの保険代理店までお気軽にご相談ください。
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