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食品製造業で労災訴訟□製麺会社事例
製造業の中でも、食品製造業は労災事故の件数が比較的多い業種になります。特に機械に手や腕が巻き込まれてしまう事故が多く、鋭利な刃物やプレス機械により指や腕の切断や挟圧されてしまった場合には、後遺障害に認定されるような大きな労災事故に繋がってしまいます。今回は、食品製造業で働くパート従業員が製麺機に左手を巻き込まれ後遺障害を負ってしまい、使用者賠償や過失割合を巡って労災訴訟に発展した事例についてご紹介していきたいと思います。
【目次】
1.製麺会社で巻き込まれ災害
2.損害賠償金の計算
3.今回のまとめ
製麵会社で巻き込まれ災害
・事件の概要
被告は製麺業を営むA社で、原告Xはそのパート・アルバイトの従業員です。A社の作業場で、A社が管理する製麺機に左手を巻き込まれる事故により、左手示指遠位指間関節解放性脱臼骨折、および左中指末節骨開放骨折の障害を負ってしまいました。本件、製麺機は作業者からみて左側にセットされた麵帯(材料を混ぜ合わせて練りあげたものを整形して帯状にしたもの)から麺を切り出すために上下する刃が付いた部分があり、その刃は常時露出していて切り出された麺は、作業者からみて右から左に流れるベルトコンベアーによって運ばれていた。ベルトコンベアーの右奥側には、本件製麺機のスイッチがあり作業者が任意に操作することができる仕組みになっていた。Xさんは製麺機により切り出されて、ベルトコンベアーで流れる麺から1玉分の麺を持ち上げ、両手で軽く握ってベルトコンベアーの右側に置かれた折箱に詰めていく作業を担当していた。Ⅹさんは、製麺機に視線を向けずに右手でスイッチを押しつつ、左手を製麺機の刃のほうに伸ばしたために、刃に触れてしまい本件の事故となった。
・損害賠償請求訴訟を提起
Xさんは本件事故、A社の安全配慮義務違反かまたは不法行為によって発生したものとして、A社に対して損害賠償請求訴訟を提起した。
・判決の要旨(3割の過失相殺を認める)
◎A社の安全配慮義務違反
・本件製麺機の刃を常時露出させたまま、特段の物理的対策を取ることなくXさんに作業を行わせた
・本件製麺機の刃の部分が危険であることを注意喚起するような表示などをしていたとは認められない
・A社が従業員に対して製麺機の危険性を十分に教育していたとは、認めるに足りる証拠はない
・露出した刃の真下に手を伸ばすことが日常作業として予定されていたことからすれば、A社において危険性を有する機械から労働者を守るべき対策は必要であった
したがってA社には安全配慮義務違反が認められる
◎Xさんの過失の相殺
・本件事故当時、麺に縮れをつける作業にあたり、視線を外した状態で左手を本件製麺機の方に伸ばしていた。危険性を有する作業であるのに、自らの手元の注意を欠いたものといわざるを得ない。
・本件製麺機は常時刃がむき出しになっており、Xさんとしてもその危険性を容易に認識することが出来たといえる。
以上のことから、Ⅹさんとしてもその危険性を容易に認識することが出来たといえるため
Ⅹさんの本件事故における過失割合は3割が相当と認める
損害賠償金の計算
判決容認額は、Xさんの年収を約109万円として認定している。判決分からは不明であるが損益相殺がなされておりおそらくは労災保険から、障害補償給付一時金が支給されているものと思われる。つまり総計の金額は、労災とは別にA社がXさんあてに支払う必要がある金額となる。
<判決認容額>
逸失利益
241万6863円
年収109万2407
後遺症12級(労働能力喪失率14%)
症状固定時35歳(32年間のライプニッツ係数15.8030)
109万2407円×0.14×15.8030=241万6863
入通院慰謝料
180万円
12日は入院、約18カ月は通院
後遺症慰謝料
290万円
後遺障害等級12級
過失相殺
498万1804円
711万6863円×(1-0.3)=498万1804円
損益相殺(障害補償一時金)
12級165万7882円
弁護士費用
33万円
総計 365万3922円
ポイント解説
保険事故が起こった状況に関してA社とXさんとの間に争いがあったが、判決は第三者として他の従業員の目撃情報を信じており、その結果Xさんの不注意が認められ、Xさんのほうにも過失が認められ過失割合が3割となった。食品加工機械については、切断の器具が付いていることが多く、その意味で労災事故の危険性は常について回る。切断する危険な部分について作業者が身体に触れる機会がないように危険な部分を覆う必要があるが、危険な部分を覆うのが難しい場合には、今度は逆に身体のほうを危険な部分から離すような装置を設ける必要があるとしています。また、安全教育が重要であり雇入れ時や移動のときには必ず行うことはもちろんのこと、さらには定期的に安全教育を行うことが必要である。仮にそのような安全教育をしているにもかかわらず、作業員がその安全な作業方法をとっていない場合が見受けられるならば、上司や監督者は厳しく注意して、その旨の記録を書面で残しておくべきである。
今回のまとめ
今回は労災事故で損害賠償が発生した事例でしたが、直接の事故の原因が作業員のよそ見であったにも関わらず、会社側に過失が認められた形となりました。安全教育の有無や機械の安全性などの問題により会社側の過失が認められており、労災給付とは別に慰謝料や逸失利益などを会社が被災者に支払いをしています。災害ゼロを目指していても、作業員の気の緩みやうっかりミスなどで完全にゼロにすることは困難なため、万一の事故の際の損害賠償などに備える意味でも労災上乗せ保険などへの加入を検討する必要があると思います。
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