お知らせ・コラム
労災発生時の事故防止措置を怠ることによる労基署による事前送検の可能性とは
労働基準監督署の通常の実務では、労働災害(業務上の病気労災を含む)が発生した場合に労働安全衛生法違反での立件を行うのか検討しますが、労基署には事故が発生する前に事前送検を行う権限があります。事前送検とは、従業員に危険または健康障害を及ぼす恐れがあるときに労基署が是正を求めたにもかかわらず事業者が従わずに放置すれば労働災害が発生する危険性が高い場合に、労災が発生する前に司法事案として立件する事を言います。
労働安全衛生法の98条1項では「危険又は健康障害防止措置等違反の事実がある時は、その違反した事業者等に対して作業の停止、建設物等の使用禁止などを命ずることができる」と規定しています。
今回は実際の事例を紹介しながら、事前送検について取り上げていきます。
【目次】
1.実際の事前送検事例とは『労災発生時に必要な防止措置をしていないと事前送検される可能性があります』
2.危険作業の洗い出しの必要性『法令違反とならないためのチェック体制』
3.今回のまとめ
実際の事前送検事例とは『労災発生時に必要な防止措置をしていないと事前送検される可能性があります』
危険な作業の状態を放置し労災が発生していなくても、すでに何度も注意勧告を行い、事業者が法令違反を認識しているにも関わらず正当な理由がなく必要な処置を講じない場合には悪質性が高いと判断されます。そして特に、従業員の生命や身体および健康を脅かしているものには重大性が高いとして事前送検される可能性が高まります。以下、実際に事前送検された事例のご紹介です。
・事例1 建設現場で墜落防止措置を講じていなかった
建設業を営む法人および現場責任者などを送検したケース。店舗施設建設工事現場において、協力会社従業員に躯体の配筋やコンクリートの穴埋め作業をさせた際に、地上から高さ4メートルの付近の作業場所に手すりや囲いなどの墜落防止措置を講じていなかった。
☆ポイント
高所作業現場において、墜落防止措置を講じていなかった事が問題になっています。当然、従業員の生命や身体を守ることを考えた場合に墜落の危険性を放置しておくことは問題であり、是正の対象となります。墜落事故は労災の中で最も死亡に占める割合が高く、仮に一命を取り留めても後遺障害が残る可能性が高いことから、適切な対処が求められます。
・事例2 無資格者の危険作業
工作部品機械部品製造業を営む法人および代表者が、無資格(玉掛け技能講習等未修了)の従業員に吊上げ荷重2.83トンの玉掛け作業を行わせたもの。
☆ポイント
無資格が問題になっています。資格が必要な機械などを用いての作業について無資格者が作業を行っている場合は直ちに中止させる必要があります。万一、作業方法を誤れば、機械自体の転倒や作業範囲での接触などにより従業員が被災してしまう危険性が高く、重大な労災事故に繋がってしまいます。
・事例3 将来的な健康被害を生む危険作業
金属製品製造業を営む法人および代表者が、アーク溶接をしていた従業員に対して有効な呼吸用保護具(型式検定合格)を使用させていなかった事案
☆ポイント
呼吸用保護具の不使用が問題となっているケースです。アーク溶接作業において粉じんの吸引を防ぐためには、呼吸用保護具の使用が最後の砦になります。
じん肺の所見者の傾向をみても、アーク溶接作業に係る作業者の割合は高いようです。じん肺を発症すると咳や痰などの息切れから始まり、長い年月をかけて肺がんを発症することもあります。将来的に健康被害が出る可能性がある作業についても違反があれば対象を是正の対象となります。
危険作業の洗い出しの必要性『法令違反とならないためのチェック体制』
労基署の実務として事例1~3のように危険性や有害性が高い作業の状態を取り除かなければ従業員が被災する可能性が高い場合には、行政処分を行います。さらに改善が見られない場合や悪質性が高い場合は事前送検を行う必要があります。つまり、労基署から行政処分が出された段階でかなり重大性が高い状態だと考えられます。
また、労基署から行政処分を受けると生産設備の稼働や作業を止めねばならず、建設業の現場においても労基署の立入り検査などで工事が止まってしまう可能性があります。
処分を受ける時期や期間などによっては、企業にとって重大な経済的損失につながってしまいます。したがって各企業においては、法令違反の指摘を受けてからの対応ではなくて、法令違反とならないためのチェック体制を構築する必要があります。
労働安全衛生法は、広範囲かつ詳細に危険作業に対する措置内容を定めています。事務所、屋内作業場、工場、建設の工事現場において危険で有害な機械設備や物質・作業が存在するのか洗い出しを行う必要があります。そのうえで関連する規定を照合して把握し、過去の送検事例や行政の動向などを分析して、できる限り危険な作業を減少させていく必要があります。
今回のまとめ
危険な作業の分析を行い、危険を取り除き安全な職場環境を提供することが事業者の責任となっています。しかし実際には、工期や人件費の問題で安全よりも作業効率を優先させてしまったり、古く危険な機械を使用していてなかなか新しく安全な機械を購入するなどは経済的な問題などで難しいケースもあるかと思います。
しかし危険な状態での作業で実際に重大な労災事故が発生してしまうと、経済的にも大きな損害を被る可能性がありますし、事故対応などでかなりの労力がかかります。また行政処分なども受ける可能性があります。
まずはリスクの洗い出しをして危険作業などの分析を行い、知恵を出し合い、工夫して危険作業の防止措置などを行い労働災害0を目指しましょう。
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