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作業中断は休憩か手待ちか?熱中症対策と企業の安全配慮義務

作業中断は休憩か手待ちか?熱中症対策と企業の安全配慮義務

2025年6月から、熱中症対策に関する報告体制の整備や手順の作成が義務化され各企業で対策を強化されていることと思います。「WBGT値が上がったから作業中断!」「気温が高くなってきたから、ちょっと休憩しようか?」こんな判断をされる場面も増えるのではないでしょうか。しかし、この「作業中断」は、労働基準法上では「休憩」になるのか、それとも「手待ち時間」になるのか悩ましいところではないでしょうか。そしてこの解釈の違いが万が一の事故の際に「損害保険」にどう影響するのかは見落とされがちです。この熱中症対策における作業中断について労働基準法の考え方と損害保険の重要性について解説していきます。

【目次】

1.熱中症対策は企業の安全配慮義務

2.「手待ち時間」と「休憩」の判断が損害保険にどう影響するのか?

3.今回のまとめ

 

1.熱中症対策は企業の安全配慮義務

まず大前提として職場における熱中症対策は、企業が負う「安全配慮義務」の一環です。労働契約法第5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする」と明記されています。令和7年5月20日付の基発0520第7号通達でも、作業中の巡視による健康状態の確認、熱中症を疑わせる兆候が見られた場合の速やかな作業中断、WBGT値(暑さ指数)の低減、休憩場所の整備、作業時間の短縮などが求められています。つまり作業の中断は従業員の安全と健康を守るために不可欠な措置なのです。では「作業中断」の法的な位置づけについて見ていきましょう。労働基準法では、休憩時間の位置を厳密に特定することを求めていませんが、実務上は正午など時間帯を特定しているのが一般的です。厚生労働省の「建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A」では、熱中症対策のための作業中断について大きく2つのパターンが示されています。

パターン1:WBGT値が下がればすぐに作業再開を指示する「待機」の状態

この場合、労働者は使用者の指示があれば即時に業務に従事できる状態で、労働から離れることが保障されていません。これは「手待ち時間」と解され労働時間に該当します。

パターン2:WBGT値が下がったとしても休憩時間中は作業復帰を指示しないパターン

この場合、拘束時間が長くならないよう留意することが望ましいとしつつも労働時間には該当しないとされています。

つまり作業中断中にいつでも仕事に戻れるように待機している状態であれば労働時間として扱われ、完全に労働から解放されている状態であれば休憩時間と見なされる、ということです。

2.「手待ち時間」と「休憩」の判断が損害保険にどう影響するのか?

もし従業員が熱中症で倒れてしまった場合、企業は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。特に作業中断中の時間が「手待ち時間」と判断されれば、その時間は労働時間と見なされます。

労働時間中の熱中症発生の場合

【労災保険】基本的に労災保険の対象となります。

【企業の損害賠償責任】労災保険給付を上回る損害について企業が損害賠償責任を負う可能性があります。特に、安全配慮義務を怠っていたと判断されれば企業の責任は重くなります。

休憩時間中の熱中症発生の場合

休憩時間は労働者が自由に利用できる時間であり原則として私的行為とみなされます。そのため休憩時間中の出来事は業務起因性が認められにくい傾向にあります。しかし、企業の支配・管理下にある状況で発生した場合は、労災と認定される可能性があります。労災認定には、以下の2つの要件を満たす必要があります。

【業務遂行性】労働者が事業主の支配・管理下にある状態で災害(この場合は熱中症の発症)に遭ったこと。

【業務起因性】災害が業務に内在する危険な要因によって発生したこと。

休憩時間中の熱中症が労災と認定される具体的なケースとしては、以下のような状況が挙げられます。

■事業場の施設や管理状況に熱中症発生の原因がある場合

■休憩場所に適切な冷房設備がない、または高温多湿な環境にある。

■熱中症予防のための対策(水分補給の奨励、塩分の提供など)が不十分である。

■WBGT値が基準値を超えているにもかかわらず、作業を継続させた。

■熱中症の初期症状が見られた従業員に適切な処置を行わなかった。

■労働者の行動が仕事に関連する必要行為や合理的行為による場合

■休憩中に業務の準備や片付けを行っていた際に発症した。

■業務に関連する場所で、合理的な範囲内での行動中に発症した。

熱中症は個人的な素因だけでなく暑熱環境という環境的要因が発症に深く関わっています。そのため休憩中であっても会社の管理する環境下で熱中症になった場合は、労災と認められる可能性が高まります。

【企業の損害賠償責任】労働時間中と比較すると責任が軽減される傾向にありますが、休憩場所の整備状況や休憩中の緊急時の対応体制など企業の管理責任が問われる可能性はゼロではありません。

 

企業が検討すべき保険

ここで重要になるのが、万が一の事態に備える損害保険です。

使用者賠償責任保険

従業員が業務中に災害に遭い、企業が法律上の損害賠償責任を負った場合に備える保険です。熱中症が原因で安全配慮義務違反と判断され、企業に損害賠償責任が発生した場合に保険金が支払われる可能性があります。

業務災害保険(労災上乗せ保険)

休憩中の事故もカバー可能な場合があります。これは、政府労災保険の給付だけでは不足する部分を補填し、企業の福利厚生を充実させる目的で加入する保険です。休憩中の熱中症など、労災認定の判断が難しいケースでも保険金が支払われる可能性があります。

賠償責任保険

企業が所有・管理する施設内で発生した事故により、第三者に損害を与えた場合に備える保険です。従業員の休憩場所など施設管理の不備が問われるケースで関連する可能性も考慮しておくべきでしょう。

熱中症対策は、従業員の安全を守るだけでなく、企業の法的責任や経済的リスクを軽減するためにも非常に重要です。事前の対策と万が一の備えを徹底しましょう。

3.今回のまとめ

熱中症対策における作業中断の判断は、労働時間の計算だけでなく万が一の事故が発生した場合の企業の責任、さらには損害保険の適用にも大きく関わります。まず、企業は明確なルール作りを行うべきです。作業中断の判断基準(WBGT値など)や中断中の従業員の行動(待機か、完全に解放されるか)を明確にし従業員に周知徹底しましょう。これにより予期せぬトラブルを避け迅速な対応が可能になります。次に、休憩時間の柔軟な運用を検討するのもよいでしょう。夏場は昼休憩の時間枠を拡大するなど柔軟に対応することでWBGT値が高い時間帯を避けて休憩を取り、従業員の熱中症リスクを低減し労働時間を効率的に管理できます。そして、損害保険の見直しも非常に重要です。自社のリスクを適切にカバーできる使用者賠償責任保険や業務災害保険(労災上乗せ保険)といった損害保険に加入しているか、補償内容が十分かを確認しましょう。万が一の事態に備え適切な保険に加入しておくことは企業の安定経営にとって不可欠です。今年の夏も企業として適切な熱中症対策を講じ従業員の安全と健康を守りながら安心して事業活動を継続していきましょう。

※出典:「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」(厚生労働省)

 

 

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