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企業が守るべき【安全配慮義務】について考える

企業が守るべき【安全配慮義務】について考える

使用者には、労働者の生命や身体等の安全、健康に配慮する義務があるとされています。

(労働契約法第5条)。この安全配慮義務を適切に履行するためには、使用者は労働者の健康状態を正確に把握する必要があります。さらに労働者自身もまた、自らの健康を回復することに努める義務があります。今回は企業が果たすべき安全配慮義務について詳しくみていきましょう。

【目次】

1.企業が安全配慮義務違反となる視点

2.会社の検診での指摘、医師の指示守らず発症

3.SDGsにも掲げられている「働きやすさ」の実現

4.今回のまとめ

 

企業が安全配慮義務違反となる視点

使用者が安全配慮義務を怠ったことで労働者に損害が生じてしまった場合、安全配慮義務違反となります。過去には安全配慮義務違反によって、損害賠償が発生している判例もあります。安全配慮義務違反となる視点は、以下の2点です。

・危険な事態や被害の可能性を事前に予見できたかどうか(予見可能性)

・予見できた損害を回避できたかどうか(結果回避性)

「生命、身体等の安全を確保しつつ労働すること」というと、工場や建設・工事現場などの危険作業や有害物質に対するものをイメージするかもしれません。しかし実際は、危険作業や有害物質のことだけではありません。厚生労働省の条文の文言にある「生命、身体等の安全」には、心(メンタル)の安全や健康も含まれると通達されています。安全配慮義務違反には罰則が存在しません。ただし、安全配慮義務違反の結果として労働者が負傷したり、病気になったりした場合には、民法上の規定により損害賠償請求が発生する場合があります。企業としては安全配慮を怠らないのはもちろんのこと、万一に備えて労災の上乗せ保険などに加入しておくことで、従業員の心身を守る対策をとることも重要です。またこうした補償に入ることで、万が一安全配慮義務違反により損害賠償責任が発生した場合も速やかに対処することができます。

会社の検診での指摘、医師の指示守らず発症

労働者自身にも、日々の生活において可能なかぎり健康保持に努めるのは当然である、と指摘された事件があります(大阪高判 平15.5.29)

【事件のあらまし】

A(当時54歳男性)は溶接工として、平成5年より工務店Eにて勤務していました。平成8年5月21日から23日までの3日間、夜間作業に従事していたところ、鉄粉が目に突き刺さる事故に遭い、その激痛のために丸二日間充分な睡眠がとれないまま同月25日から再び出勤しました。その後Aは溶接作業中に脳梗塞を発症し、同月29日に死亡しました。Aの遺族は工務店Eに安全配慮義務違反があったとして1億円の損害賠償を請求しました。

【判決の要旨】

大阪高裁の判決は以下のとおりです。

①工務店Eは、Aの年齢や検診結果を把握しており、健康状態等に応じて従事する作業時間、内容の軽減、就業場所の変更などの適切な措置を図るべきであり、工務店が従業員Aに対する安全配慮が足りなかったことと、Aの死亡には因果関係がある。しかし、夜間勤務での事故についてAが報告をしなかったため、工務店側が事故について認識できなかったことについては考慮すべき点もある。

②さらに、Aは平成6年及び7年の会社での健康診断で、心房細動による治療を要するという医師の所見が示されており、指示された治療を受けるべきであったにもかかわらず行わなかった。適切な治療を受けていれば今回の脳梗塞の発症を回避できた可能性は否定できない。

③よって、双方の事情を考慮し、安全配慮義務違反によりAが被った損害額から4割を減じた額について工務店Eは責任を負うものとする。

このように、裁判所は工務店の従業員に対する安全配慮が足りなかったとしながらも、Aが検診での医師の所見に従わず適切な治療を受けなかったこと、また夜間作業中に起きた事故の報告を怠ったことから、必ずしも全面的に工務店側に責任を負わせるべきではないとし、損害額を減ずる形で判決を下しました。

SDGsにも掲げられている「働きやすさ」の実現

働きがいのある職場に必須の「働きやすさ」を実現する安全配慮義務。この安全配慮義務を果たすための措置は、大きく6つに分けられます

■安全衛生管理体制を整える

■安全衛生教育を実施する

■労働環境における危険防止

■健康配慮 心身の健康保持・増進

■職場環境配慮 人間関係の改善・ハラスメントの撲滅

過労死防止 労働時間の管理

昨今認知が高まってきている※SDGsが掲げる17の目標の8番目に”働きがいも経済成長も”という開発目標があります。働きがいがもてる社会の中で、経済成長を実現していこうという目標です。変化の激しい世の中で、企業はその流れに対応しながら、長期的に存続・成長するための戦略を策定・実行していかなければなりません。労働者の働きがいは、企業の持続的な成長を下支えします。

※SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のこと。2015年9月に国連で採択されました。これは、貧困や紛争、自然災害、感染症といった 人類が直面している課題を克服し、2030年までに世界が達成すべき目標を掲げています。

今回のまとめ

働きがいのベースにあるのは、働きやすい労働環境です。仕事にやりがいがあっても働きづらい労働環境では、働きがいがある状態とはいえません。そして、この働きやすい労働環境を考える上で不可欠なのが、安全配慮義務です。企業が長期的に存続・成長するためには、まずは安全配慮義務を今一度確認して、足元の労働環境の改善から考えてみてはどうでしょうか。

 

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